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療養病床削減目標はいかにしてつくられたか療養病床の再編は、かねてより指摘されつづけてきた、医学的治療が必要ないにもかかわらず患者や家族の生活上の理由から病院に居つづける「社会的入院」の問題を是正し、入院医療の質を改善する目的で行うものである。
したがって、その削減見通しを立てるうえでは、どれくらい「社会的入院」があるのかを判断する必要がある。 そこで用いられた基準が、同じ年の診療報酬改定で療養病床の患者に適用されることになった「医療区分」である。
医療区分とは、療養病床に入院する患者を医療の必要性に応じて区分したものである。 具体的には、医療の必要性の高い「医療区分3」から医療の必要性の低い「医療区分1」まで(中医協)が入院患者の実態調査を行っている。
そこで得られた医療区分ごとの患者割合のデータをもとにして、「医療区分1」の患者が「社会的入院」に該当するという前提で、療養病床の削減見通しが立てられたのである。 いまからふりかえれば、私自身、「本当に一五万床にまで削減して大丈夫なのだろうか」と心配になる。
というのも、厚生労働省が一五万床の根拠とするのは、この医療区分のデータしかないからだ。 このデータが患者の実態を正確に反映していなければ、一五万床という見通し自体がおかしいということになる。
一五万床で必要なサービスは確保できるかもしれないし、できないかもしれない。 そうした不確かさを抱えながらも、医療費を削減しなければならないなかにあっては、とにかくそれをもとに進めざるをえなかったのである。

さらに、一五万床という数字を算出するにあたっては、医療区分の考え方に若干の修正を施している。 三段階の医療区分のうち、医療の必要性のもっとも低い「医療区分1」だけではなく、その次の「医療区分2」の一部にも老人保健施設などで対応可能な患者がいるという前提で、それらの病床も転換対象にカウントしている。
具体的には、うつ状態、得そう、皮膚の潰瘍ケア、創傷処置に該当する患者である。 療養病床の再編は医療区分に基づいているとの説明をしながら、細かなところで医療区分と異なる判断をするというのでは、医療区分とはいったい何なのかということになる。
後述するように、これはすでに政策として決められていた平均在院日数短縮の目標との整合性を無理やりにとるための対応であったのだが、厚生労働省内部の事情など知ったことではない国民からすれば、「それは数字合わせだ」という批判が起きるのも無理はない。 なぜこのようなかたちで療養病床再編が決められることになってしまったのか。
そこには、社会保障費削減が政策の至上命題となるなかで、縦割り行政のもと、政策全体の整合性が十分に考慮されないまま、拙速なかたちでこれだけの大改革が決められたという問題がある。 「社会的入院」の是正の必要性そもそも療養病床再編は、なぜ行われることになったのか。
療養病床とは「主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるための病床」と位置づけられている。 そして内訳として、医療保険適用のものと介護保険適用のものの二種類がある。
しかしながら、ともに医師の対応がほとんど必要ない人がかなりの割合でいるのではないかと、長年いわれてきた。 これは、昭和四十八年の老人医療費無料化以降、福祉施設が不足するなかで、病院が高齢者の受け皿となってきた歴史的経緯によるものであり、まさに「社会的入院」の温床となっている。
入院医療の質を改善するとともに、医療費の適正化にもつなげていくためには、「社会的入院」の是正が不可欠である。 ただし、しばしばわが国の平均在院日数が諸外国にくらべて著しく長いといわれるが、その際に用いられているOECD(経済協力開発機構)のデータは各国で定義が異なることに注意が必要である。
日本の平均在院日数は三十日を超える一方、欧米先進国は十日前後であるが、そもそも諸外国のデータには療養病床のような施設が除かれているのだ。 したがって、こうした国際比較だけに頼って議論することは不正確である。
OECDのデータは各国政府が提出するデータであり、正しい医療政策論議のためには、政府として国際機関などにおいて統計の基準整備を求めていく必要がある。 さらに、諸外国との間ではそのほかにもさまざまな制度や社会状況の違いがあり、データだけを一概には比較できない。

しかしながら、実生活のなかで多くの国民が、日本にはいわゆる「社会的入院」と呼ばれる人たちが比較的多いのではないかという印象をもっているのも事実である。 こうした観点から、療養病床を医療の必要性が高い患者を受け入れるものに限定して医療保険で対応し、医療の必要性が低い患者については、病院ではなく老人保健施設やケアハウスなどを含む在宅サービスなどにおいて介護保険で対応するというのが、今回の療養病床再編の基本的な考え方である。
このような発想自体は、限られた医療資源を効率的かつ有効に活用しようとするものであり、わが国の医療・福祉政策のゆがみとして長年指摘されつづけてきた課題に解決の道筋をつけるものとして、決してまちがった考え方ではないだろう。 ただ問題は、それが実態に即した計画なのか、またそれを具体的にどのようなかたちで実施していくのかという点なのである。
突然に決められた療養病床再編計画療養病床の再編は、長らく医療と介護の区分けをあいまいなものにし、無駄な医療費を垂れ流す原因となってきた「社会的入院」を是正するという点で歴史的ともいえる大改革だ。 にもかかわらず、その具体的な制度設計や進め方について十分な議論があったかといえば、実態はむしろその道である。
縦割りになっている関係部署の間で十分な意思疎通や連携が行われないまま、法案提出直前の土壇場になって、多くの重要事項が決められた。 何度も確認するが、療養病床の再編がこれだけクローズアップされたのは、医療費適正化という大きな政策目標が掲げられているためである。
つまり医療保険財政が悪化してきたために、医療費を削る必要に迫られていたのだ。 しかし、当初は医療費適正化のために療養病床の具体的な削減数を決めるというところにまでは至っていなかった。
関係者の猛反発が必至なので、とてもそこまではできないと考えられていたのだ。 もともと医療費適正化の方策として考えられていた平均在院日数短縮は、地域において複数の医療機関が形成した疾患別の診療ネットワークのなかで、患者の全体的な治療計画を共有し、連携しながら治療を進めていくなど、医療機関の機能分化と連携を推進することや、病院から在宅への復帰を促すため、看取りまで含めた在宅医療の支援体制を構築することなどで進められる予定だった。

これらは、熊本市内などで行われている「医療連携クリティカルパス」や尾道市の「退院・転院時ケアカンファレンス」などの事例をもとに、患者に対して適切な医療サービスを切れ目なく提供する体制を構築しょうとするものである。 こうした考え方自体は、医療制度改革として望ましい方向だといえよう。
もちろんこのようにして「社会的入院」を減らしていくと、最終的には病床削減を伴うことになる。 だから厚生労働省としては、病院に対する財政支援策も検討していた。

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